2026.02.16
やさしさと距離感
ブログ友人の悩みを聞くことや、職場の後輩から相談を受けることは、日常のなかで少なくありません。誰かの苦しみに触れる機会は、思っている以上に多いものです。
やさしい人ほど、相手の気持ちをまるで自分のことのように受け取ります。相手が悲しめば一緒に胸が痛み、相手が苦しめば自分まで重たくなる。その感受性はとても尊いものですが、時にその優しさが自分自身を消耗させてしまうこともあります。
実際に、2011年の東日本大震災の際には、被災地にいない人であっても強い感情移入によって体調を崩したり、食欲が落ちたりするケースが多く見られました。当事者でなくても、心が深く揺さぶられることはあるのです。
けれども、少し冷静に考えてみると、その問題はあくまで「その人の課題」です。自分の課題ではありません。この視点を忘れないことは、とても大切。いわゆる課題の分離という考え方です。
もし相手と同じ感情の渦の中に入ってしまえば、同じフィルターで物事を見ることになります。すると、視野は狭まり、客観性は失われ、本来できるはずの的確なフィードバックも難しくなります。
たとえるなら、溺れている友人を助けようとして、自分まで一緒に溺れてしまうようなもの。助けたい気持ちは本物でも、自分が浮いていなければ手を差し伸べることはできません。
感情移入そのものは悪いことではありません。むしろ、人と人とをつなぐ大切な力です。ただし、使い方を誤ると、相手の怒りを強め、悲しみを深め、問題をさらに大きくしてしまうこともあります。共鳴しすぎることで、出口が見えなくなることがあるということ。
だからこそ意識したいのは、ニュートラルな立ち位置です。相手の気持ちには共感しながらも、同じ感情に飲み込まれない。少し抽象度を上げ、より高い視点から状況を見る。その姿勢があってこそ、落ち着いたフィードバックが可能になります。
その視点を誰かが保っているだけで、当人にとっては大問題に思えていたことが、実は越えられる出来事だったと気づけることもあります。そして何より、「あなたには乗り越える力がある」と信じてもらえることが、相手にとって大きな支えになります。
一緒に苦しむことが支えになるとは限りません。むしろ、揺れない存在でいることのほうが、相手の力を引き出すこともあります。
感情移入は大切な力です。しかし強すぎれば、自分も疲れ、相手も問題の中にとどまり続けてしまう。だからこそ、やさしさと同時に、静かな客観性を持っていたいものです。



